1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. 最新人材マネジメント情報
  4. イノベーション力強化のための育成施策について考える
最新人材マネジメント情報

イノベーション力強化のための育成施策について考える

日本経済が新たな成長軌道に乗るための最大の鍵は人材育成である、ということがますます共通認識になってきているように思います。そして、これからは従来の延長線上ではないところに、新しい仕組みや、新しいサービスを生み出していかなければならないのであるから、従来の人材育成の方法では足りない、ということも。そして、最近企業を訪問していて頻繁に耳にするのが、従来は「課題解決型」の人材能力開発が主だったが、これからはもっと「課題設定型」の人材能力開発にシフトしていかなければならない、ということなのです。ただし、そのための手段として有効なものはまだ見あたらず、従来からあった「創造性開発」の研修を行なったりもしているが、その有効性には限界がある、とも。

しかし、そのような中、(例によってですが)米国をベンチマークとしていて最近気づいたのは、「新しいものやサービスを生み出す」ための手法や思考法は、ほぼ固まってきている、ということなのです。それは「Design Thinking(デザイン思考)」というものです。IDEOという、革命的なデザインと、それを通じた新商品を生み出す、リーダー的なデザイン会社のことを耳にされたことはあるでしょうか? IDEO社は、自社におけるデザインの考え方やプロセス自体を公開し、啓蒙していることで有名で、そのプロセスはTV番組や本にもなったりもしており、本には日本語訳もありますが、そのIDEO社の手法に端を発したものが、「Design Thinking」であると言ってよいようです。それは生活者の生活場面の中に飛び込んで、「人類学者」の姿勢と視点で生活者の行動を観察し、生活者が習慣に囚われているために気づかない視点から、問題を解決する道具のプロトタイプを作って実験を重ねていく、そのような方法です。そのプロセスを簡単に説明したスタンフォード大学の学生作のわかりやすい映像がYouTubeにもあります。学内で自転車に乗りながらコーヒーを飲んでいる学生が多く、それは不便だし危ないということで、それに対する問題解決策を考えてみた過程を紹介する映像です。

     


さて、これが、イノベーション力強化の標準的な手法であるとしたら、人材育成のプログラムはどのように変わってくるでしょうか。まず、これまでのような普通の教育研修ではこのプロセスの習得は難しそうです。このスタンフォードの生徒達がそうしているように、プロジェクトを組んで、野に出て、生活者を観察し、何か作ってみなければなりません。そのプロセスに長けた人を指導者としてつけることも必要になりそうです。生活者の様子を映像で記録したり、大量の写真を撮ってその内容を分析したり、といった、デジタルツールの使いこなしも必要になりそうです。

しかし、そもそも、生活者の様子を、新たな視点で観察し、映像で撮って、新たな角度から切り取って見せる、というのは、ブログを書いたりすることにも似ています。中国に進出した伊勢丹では、新店進出にあたり、消費者を知るために、街中に出て何千枚もの写真を撮り、その内容を解析したと言います。また、販売員を教育するために、販売員に毎週売れた商品の「絵」を描かせると言います。そしてそこに、売れた理由、在庫の有無も書かせると言います(日経ビジネス誌の記事による)。手を動かして表現することで、初めて気がつくこともあるからです。そんなこととも似ています。こうしてみると、「デザイン思考」に習熟した人を連れてきて実践的な研修を行なう、ということもさることながら、日々の気づきの交換など、重層的に様々な取り組みが必要になりそうなことがわかります。


さて、そして、企業における「Design Thinking(デザイン思考)」の活用をめぐって、今現在論点になっているのはどうやら、「デザイン思考」と「(シックス・シグマに代表される)プロセス改善思考」の両方をいかに企業の中で働かせるか、ということなのです。カリフォルニア大学バークレー校のSara Beckman先生は、9月5日付のNYタイムズの論考の中で、「デザイン思考は前提条件を疑う量子力学のようなもので、プロセス改善思考は3次元の中で物事を定義するニュートン力学のようなもので、全く異なったものが求められるが、前者によってブレークスルーが得られたあと、後者によってプロセスが磨き上げられて、そしてビジネスとして成功する」という趣旨のことを、述べています。

さて、そこで考えたいことは、人材のポートフォリオ、そして育成手段のポートフォリオ(組み合わせ)を意識しよう、ということなのです。本コーナーの7月12日付の拙稿で述べたように、現在、必要とする人材、そしてその能力要素を、4象限の骨太の枠組みで整理することが重要だと考えます。そして、次のポートフォリオの中で、「デザイン思考」とそれを身につけた人材は、まさにこの左上の象限に位置します。

designthinking

日本企業全体が置かれた状況の中で、人材育成課題の焦点は変化してきました。「品質とプロセスの改善」が鍵だった時代には、左下の象限に相当する「TQC」が人材育成の中心でした。しかし、一時期、その対局に当たる「戦略思考」とその手法が脚光を浴びました。そして、戦略を実行に落とし込むためにプロセスをゼロから考え直す必要がある、と、右下の象限に相当する「リエンジニアリング」が脚光を浴びた時期もありました。そして、現在は、これまで手薄だった、左上の象限が、まさに脚光を浴びようとしていると考えられます。しかしそれ以上に重要なことは、この4つ象限全てについてバランスのとれた能力を持ち、企業として組み合わせて発揮することだ、と言うことができると思います。そのために、企業の人材のポートフォリオをあらためて見直してみる時だ、と考えるのですが、いかがでしょうか。

この記事につぶやく

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録