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最新人材マネジメント情報

人材育成は測定の仕組み作りから

(本稿は、月刊「人材教育誌」8月号への寄稿記事を要約するとともに、一部内容を加えたものです。)

【測定に改善がついてくる】

人材教育の効果を必ず上げてそれを経営者に示すことは可能である、と言いきってしまっていいと思う。それは、教育によって変化をもたらしたい行動は何かということを予め明確にし、その行動を繰り返し測定し、本人にフィードバックすることを通じて、である。「測定できないものは改善できない」という金言がある。日々の行動の「測定」によって、現場で自分の課題を痛感し、何を改善すべきか腹に落ちれば、現在のウェブ環境の中にあっては知識やヒントを得るためのあらゆるリソースは手に入る。極論すれば、研修では「いざという時に何を参照したらいいか」ということさえ教えられればいい。

たとえば、管理職の部下との面談力強化を図る場合、研修の場で「コーチング理論」だけを学んだとしてもそれだけではおそらく効果はない。もう少し進んで、研修の場でロープレを行って「コーチングの要領」を修得したとしても、職場に戻って2週間もすれば、元の木阿弥になってしまう可能性が高いだろう。しかし、コーチングの姿勢を示す行動指標を一つか二つでもよいので明確に定義し、行動変化することを職場のメンバーの前で宣言したらどうだろうか。例えば、

  「部下自らに仕事の改善策を考えさせ、それを誉める」

ということにおいて自分は変わる、ということを職場で宣言すれば、実際に行動変化が起きる蓋然性は高くなるだろう。そしてその上で、実際に変っているかどうか継続的に測定を行えば、ほぼ確実に行動は変わる。すなわち、

  「過去一ヶ月の間に、メンバー自らに仕事の改善策を考えさせ、それを誉めたか」

ということについて、毎月1回半年間、職場のメンバーからチェックしてもらうのである。それにより、その管理職氏はともかくそのような行動をとろうとするだろう。人によっては、月に一度チームで「仕事の改善ミーティング」を開くことにし、メンバーに改善案フォーマットを記入させてその内容をミーティングで揉むことにし、自分はポジティブな元気づけのコメントに徹する、というように、一見「安易な」方法を発明して、周りからのチェックの目をクリアーしようとするかもしれない。しかしそうなったらそうなったで、メンバーによる議論が新たな価値として加わり、さらには、議論を経た改善プランが形として残ることになる。すなわちコーチング研修の「成果」が目に見えるものになり始めたことになる。そしてそれはまさに経営者にも示せるものとなる。


【教育研修を測定中心に組み直す】

たとえば管理職昇格時研修を行うにあたって、研修内容とリンクさせた360度フィードバックを半年間程度継続的に実施することで、効果的・効率的に新任管理職の立ち上げを行うことができる。

●管理職人材像を「行動指標」として定義する。それに基づいて管理職研修を行うとともに、それを測定するものとする。
●研修後の半年間、月に一度、管理職としての望ましい行動がとれているかどうか、360度フィードバックを通じて上司・部下・同僚にチェックしてもらう(毎月自動的にアンケートを配信するウェブツールを用いる)。
●それによって、その管理職にどのような行動が期待されているかということを、職場の関係者が十分に理解するようにする。結果として職場をあげて管理職の育成を行っていくことになる。
●単に点数によるフィードバックではなく、1ヶ月の間に見られた優れた行動についてもフィードバックするようにし、本人の行動改善を動機づける。

そうすることによって、例えば半年間の間に次のグラフのように改善が見られることになる。改善が思わしくないメンバーがいる場合には逆に、職場の状況や、本人の職場とのマッチングとに問題があることがわかるので、すみやかに手を打つことができる。単に研修を行っただけで放っておいたとしたら、改善が期待されるどころか、研修を行ったこと自体が忘れ去られてしまった可能性が高い。

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【測定データをとことん活用する】

測定したデータは活用しなければならない。フィードバックして終わりでは、宝の持ち腐れである。

360度評価から得られたデータに基づいて、項目と項目(行動と行動)の間の相関を因子分析手法等を用いて分析することで、スキル・能力をどのようにカテゴリー分類したらいいのか、人材タイプをどのように分類できるのか、ということが客観的に明らかになる。それにより、求める人材像の説得力を増すことができ、取り組みの真剣度、そして人材育成がさらに進むようになるという好循環が回り始める。

たとえば、サービス業において、若年層対象に360度フィードバックを通じて得られたスキル評価データを分析した結果、業績に影響する能力・スキルはつまるところ次の図のように4つの因子に整理できることがわかり、その4因子を軸に能力開発プログラムを見直した。

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あるいは、小売業において、店長の360度フィードバックを通じて得られたデータを分析して因子を整理した結果、店舗マネジメントの良し悪しとはつまるところ次の図のように3つの因子に整理できることがわかり、この3つの因子に対して施策を打てばよいことが客観的に裏付けられ、店長教育の柱を3つに整理した。


【フィードバック、プラスアルファの介入】

ただ、フィードバックするだけで本当に改善するのか、プラスアルファの介入、例えば教育研修やコーチングといった介入が必要ではないか、と言う議論はあるし、それには一理ある。しかしそこにおいても、まずは、フィードバックが十分腹に落ちるようにすることが最優先である。すなわち、

●測定する項目(行動指標)の趣旨・背景が理解されること
●項目が暗記されるくらいまでに浸透すること
●フィードバックを行うという行為が組織の中に根付くこと
●客観的にお互いを評価し、誉め合う風土が根付くこと

そのためにも、測定・フィードバックを何度か繰り返す必要がある。何事においても、一度だけやって何かが変わるということはないのである。ただし確かに負担感がないかどうかということが問題になる。繰り返し実施するポイントは次の通りとなる。

●項目数を少なくすること。せいぜい15項目程度が望ましい。
●繰り返し実施の負担が少ないツールを使用すること。(HRアドバンテージのツールQSFの場合、一度セットすれば決められた日時に自動的にアンケートが配信され、回答が終わり次第すぐにオンライン上で本人は結果を閲覧したり分析したりできるように作ってある。)
●マンネリ化しないよう、経営環境変化を反映させたり、先に述べたデータ分析を通じて、行動指標を毎年ブラッシュアップしていくこと。

その上で、研修やコーチングを導入する場合にも、まずはフィードバック結果を活かすことを主目的とした、シンプルなものが望ましいだろう。その上で、次に本格的なコーチングやメンタリング環境の整備を考えることになる。
●感情的にではなく客観的に「問題」を分析してアクションプランを考えるための「情報の解釈の助け」
●本人が自己分析するだけでは気づかなかったことに対して気づきを与えるための「他者との会話の機会」


【フィードバックの可能性に着目した新サービス例】

以上のように、人材育成のための測定の原則は、「測定はできるだけ軽く頻度高く」「得られた情報の活用は思いきり厚く」ということができるだろう。「できるだけ手軽に多面フィードバックを得る」ことだけを目的とした新しいWebサービスが米国で普及しつつあるのでご紹介したい。Ryppleというサービスで、そのキャッチフレーズは「ほんのちょっとフィードバックがすごく役立つ」(A little feedback goes a long way)というもの。(機能限定版は無料で使うことができる。)

「自分のマネージャーとしての日々の振る舞い」「今行った研修の良し悪し」「今のプレゼンテーションの良し悪し」「今のチームの状況をどう考えるか」等々、多面アンケートによる評価が馴染むものはいくらでもある。それらについて手軽に評価依頼を発信し、そして答えてもらったらその結果をすぐに見て共有する、というツールである。ジャンル別に「よく使われる設問」がランキングされて出てくる。多くのユーザーが使うことを通じて、「良く使われる設問=皆が評価してもらいたがっている設問」が明らかになってくるので、それを通じて、フィードバックの文化を組織に根づかせるノウハウが蓄積されていくことになる。人や組織の測定は、今後とも「多面アンケート」が中心になる。であれば、それを実施するためのハードルを極力下げた同サービスは参考になるとともに、今後の動向が気になるところである。

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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