1. トップページ
  2. インフォメーション
  3. 最新人材マネジメント情報
  4. 『課長の教科書』を血肉にする
最新人材マネジメント情報

『課長の教科書』を血肉にする

ベストセラーの『はじめての課長の教科書』(酒井穣著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読んだ。実は私はこの本のことを知らなかった。ミドルマネジャーの仕事について概説した本を探していたのだが、ありそうでなかなかない。そこでこの本に突き当たり購入し、購入してから、実は昨年から大変に話題になって売れている本なのだということを知ったのである。アマゾンの総合ランキングで一位にもなったという。発売後3ヶ月で9刷、10万部を達成したという。

同書の中で、著者は、「ビジネス書を読む」ということについて次のように指摘している。「本で得た知識というのは、実際に実行してみることではじめて、直感的な思考法を司る小脳に「経験」として刷り込むことができるのです。ですから、実際に実行するプロセスが付随していない限り、良書が本来持っている力も半減か、それ以下となってしまうのです。(P.216)」しかし同書には、同書の指南を実行するためのプロセスは書かれていない。そこで、実行するためのプロセス、すなわち、同書の中身を血肉にするための方法を提案しよう。

まずは、良い本と感じるのみならず、後から人に「何が書いてあったか」と聞かれたとしても内容を説明できるように、自分の言葉で再構成する。その上で実行の項目に落とし込む。すなわち、実行状況を、自分自身のみならず第三者的にも確認できるような行動指標に落とし込み、できれば自分だけでなく仲間にも手伝ってもらって一定期間チェックを繰り返す。それによって自らの行動を客観的に振り返り、矯正し、新しい行動を習慣化する。

再構成するとは、例えば次のように再構成する。同書の主要部分は次のように構成されているが、

第2章 課長の8つの基本スキル
スキル1.部下を守り安心させる
スキル2 部下をほめ方向性を明確に伝える
スキル3.部下を叱り変化をうながす
スキル4.現場を観察し次を予測する
スキル5.ストレスを適度な状態に管理する
スキル6.部下をコーチングし答えを引き出す
スキル7 楽しく没頭できるように仕事をアレンジする
スキル8.オフサイト・ミーティングでチームの結束を高める

第3章 課長が巻き込まれる3つの非合理なゲーム
非合理なゲーム1 企業の成長を阻害する予算管理
非合理なゲーム2 部下のモチベーションを下げかねない人事評価
非合理なゲーム3.限られたポストと予算をめぐる社内政治

第4章 避けることができない9つの問題
問題1 問題社員が現れる
問題2 部下が「会社を辞める」と言いだす
問題3 心の病にかかる部下が現れる
問題4 外国人の上司や部下を持つ日が来る
問題5.ヘッドハンターから声がかかる
問題6.海外駐在を求められる
問題7.違法スレスレの行為を求められる
問題8 昇進させる部下を選ぶ
  

「8つの基本スキル」というのは、部下の仕事には8つの側面があり、それら8つの側面にはそれぞれ固有の扱い方のコツがあるため、それぞれを管理対象として対応する、ということであると理解できる。「3つの非合理なゲーム」というのは、部下以外の管理対象として3つの主要な管理対象があり、それぞれがやはり固有の扱い方のコツを要する、ということであると理解できる。最後の「9つの問題」というのは応用問題だと考えてよいだろう。

そうして、同書においては、課長が会社の中で対応しなければならない具体的な「対象」が洗いだされ、それぞれへの対処の仕方が述べられていると考えれば、同書の指南を観察可能な行動指標に落とし込むことができる。「【対象】-それに対する行動の作法」という形で行動指標に落とし込んでみよう。そしてできればそれを、例えば下記のように図解することで、全体像の理解と記憶を容易にすることができるだろう。このように、「教育研修」を行ったら、そこで学習することを日々の「行動指標」に落とし込み、職場で習慣化するためのプログラムをただちにスタートさせることが効果的である。(そのためのツールとしてHRアドバンテージのQSFがある。) 

 middlemanagerchecklist


                                                     

 さて、それにしても、なぜこの本はそれほどまでに売れたのだろうか?この本のメッセージやガイドの価値をどのように評価したらよいだろうか?あらためて考えてみたい。

たまたま著名ブログで激賞され、話題増殖のループに乗ったからだろうか?
マネジャーの仕事の全容を語る本がたまたまなくて、盲点を突いたからだろうか?
トップダウンでもボトムアップでもない「ミドルアップダウン」という言葉によって、日本企業における中間管理職の役割を喝破した、野中郁次郎氏らの画期的なミドルマネジメント論を、再び蘇らせたからだろうか?
日本の組織で身を処していくにあたって必要な配慮が、きめ細かくとらえられているからだろうか?
著者自らの経験に裏打ちされた生の声を感じさせることが、共感を呼び起こすからだろうか?そして、自らの経験に忠実な著者の謙虚な姿勢が好感を感じさせるからだろうか? 

著者は、オランダで活躍する実業のビジネスマンであり、同書も「教科書」と銘打たれながらも、体系的な本というよりは『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』的、語られている内容も個々に見ると特段に目新しいことではない。著者も、売れ行きにびっくりしたのではないだろうか?その魅力の秘密はどこにあるのだろうか? 

 それは、人材像を立体的に描いている、ということだと思う。書かれている一つ一つのことは普通のことであるが、「人材像の氷山」の上から下まで、すなわち「成果~スキル~行動特性~価値観」まで、一貫性を持って課長像が語られており、かつその課長像が、著者自身の経験と日本の組織に生きる者の集合意識(共通言語)とに裏打ちされており、それが共感を生み、日本の組織の中でビジネスリーダーをめざそうとする若手に対して、進むべき道を示すことになっているのである。

その一貫性とは、課長の仕事の人間的な側面の強調である。著者は、課長として最も大切な仕事は「部下のモチベーションを管理する」という仕事であるという。しかもそれは、いわゆる馬ニンジンによるのではなく、「部下の内側から湧き上がるモチベーションを管理することで部下自らが高い業績に向かっていくようにすること」だという。著者は、「人間を相当深く理解することなしに金儲けはできないほど、世界の競争が激化しつつあることが、経営学をより人間学に近いものにさせ、限りなく面白くしている・・・良い人間であることと、良いビジネスマンであることの違いが小さなものになりつつある・・・」と語り、同書が「ビジネスマンであることを誇りに思う」小さなきっかけになることを望むと語っている。 

 ただ、これからの中間管理職の養成を、人のマネジメントの側面を専ら強調して行うことが良いか、ということについては疑問も残る。課長になるような人は仕事のスキルそのものは優れているのだから、そのことには焦点を当てなくていい、と割り切っているとも言えるが、

中間管理職としての職責を果たしながら、日々進化するビジネスやテクノロジーの最前線のセンスを維持し、若手に常に一目置かれるオヤジであるためにはどうしたらよいか、ということこそ、中間管理職の悩みである可能性はないか?
従来のビジネスモデルではあっちもこっちも行き詰まる中で、方向はこちらだ、と示すことができるようなビジネスセンスをいかに持てるか、ということこそ、ミドルアップダウンで組織を動かすこれからの課長職の課題ではないか?
だから価値観としても、部下という人間へのコミットメントのみならず、市場へのコミットメント、プロセス改善へのコミットメント、テクノロジーへのコミットメント、が同じくらい必要になるのではないか。

・・・と、人材要件定義にあたり一通り考えてみるべきコンピテンシーモデルのディメンション(尺度の軸)を眺め回していて思う。その意味で、同書における課長の人材像とは、あくまでも著者の考えであり、そしてそれは日本企業の伝統的な人材像を踏まえたものであり、かつ、読者の強い共感を得たところのものではあるが、それが各企業において今後育成すべき課長像であるかどうか、そして、仮に本書を管理職研修等のテキストとして用いるとしたら本書で課長の人材要件のどこまでをカバーしていると見なすか、ということについては、各社ごとに判断されるのがよいと思う 。

 

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

サービスに関するお問い合わせ・ご相談はこちらまで

お問い合わせ

人事に関する情報が満載メールマガジン配信中

メールマガジン登録