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人材像の進化をとらえる・・・「自己コントロール」コンピテンシーを例にとって

人材育成のためには、そもそもどのような人材を育成しようとしているのか、求める人材像が明確になっていなければなりません。しかし、経営環境やビジネスの変化に伴って、この数年間、求められる人材像は変わってきました。そして今また、大きく変りつつあるのかもしれません。それをどのようにとらえたらいいでしょうか?

人材像は「コンピテンシーモデル」で記述することができます。そこで、コンピテンシーモデルをどのように見直すか、ということについての着眼点として、次の二つがあります。

【コンピテンシーの組み合わせを見直す】 コンピテンシーの組み合わせを見直す。例えば、従来は創造性とはどちらかというと個人的なものとされていたが、チームでイノベーションを起こすために、これからは「創造性」と「対人感受性」の両方を発揮することが求められることを明確にする、等
【個々のコンピテンシーに着目】 コンピテンシーそのものの意味内容が変わってきたことをとらえる。「自己コントロールのコンピテンシー」が、「規律を守る」ことから、「主体的にリスクセンスを働かせること」へと、意味内容が変わってきたことを明確にする、等。

ここで注目したいのは後者です。コンピテンシーの内容自体が変わっているのです。それは、能力や適性を表す言葉の意味内容が変化していることであり、つまりは、ビジネスマンの仕事観や人生観が変っていっていることに他なりません。人間の脳や肉体の構造そのものが変化しない以上は、能力のディメンション(測定・評価軸)は根本的には変わらない筈、とも言えますが、ビジネスの文脈の中で頭や心や体をどのように使うかということにおいて、これまでにないような使い方が求められている、ということを意味します。

経済環境の変化の中で、コンピテンシーの意味内容自体がどのように変わっていっているか、コンピテンシーの分野である、「自己コントロールに関わるコンピテンシー」「対人的なコンピテンシー」「プロセスマネジメントに関わるコンピテンシー」「成果追求のコンピテンシー」「論理的なコンピテンシー」「創造性に関わるコンピテンシー」のそれぞれについて、突き詰めて議論してみたいところですが、ここでは、「自己コントロールに関わるコンピテンシー」を取り上げて、その変化の状況を例示してみたいと思います。


日本のビジネスマンに求められる「自己コントロール力」の要素といえば、従来は次のようなものが中心だったと考えられます。

「規律」
「協調性」
「感情の安定性」
それに加えて、近年は次のようなものが加わってきたと考えられます。
「ストレスマネジメント」
「自らの強み・弱みの認識」
「コンプライアンス意識」


しかし、グローバル化への対応、イノベーションの要請、そしてリーダーシップの要請とともに、「自己コントロール」としては同じでも、従来とはかなり異質な要素が求められるようになっている可能性があります。そしてそれは、日本の組織マネジメントやビジネスマンのあり方にも大きな影響を及ぼさざるをえないと考えられるのです。例えば、

「率直さ(candor)」
というものがそれです。「率直さ(candor)」は、GEの前CEOのジャック・ウェルチが、その著書「Winning(邦題:「ウィニング 勝利の経営」)」の中で、ビジネスの4つの原則の2番目に上げているものですが、次のように語っています。

「言うべきことを言わない、という習慣がビジネス界の最大の恥(the biggest dirty little secret)だ。あまりに多くの人が、本能的に、自分の思うことを率直に話さないことが多すぎる。・・・率直であることが勝敗を分かつような重要性を持つようになったのは、比較的新しい。」

日本人のサラリーマンの文化においては、「率直さ」とは逆に、「その場に合ったことを言う」ことが重要である、とされていることはよく指摘される通りです。そして何故か、「空気を読む」という言葉でもって、その重要性がますます強調されるようになってきている感もありますが、しかし、それは、組織のグローバル化の障壁になる、ということが指摘されています。東京に本社を置くグローバルカンパニーとして名高いセキュリティソフトのトレンドマイクロ社はこの点を問題視し、社員の意識変革のためにユニークな研修プログラムを独自に開発してきたと言います。 

「まず、研修の受講者は1枚の用紙を渡され、三つ折りの折り目をつける。真ん中に「実際に起きたこと」、左端に「本音で思っていたこと」、右端に「建前で発言したこと」とそれぞれタイトルをつける。・・・それぞれを埋めて、自分の本心と実際の発言のギャップを浮き彫りにする。これを社員数人で共有して、議論するのである。・・・こうした訓練を国籍の違う社員同士で繰り返し議論することで、「本音」と「建前」の見分けができるようになる。・・・こうした研修を通して、初めはおとなしかった日本人も、やがて積極的に意見を発するようになる。「本音は仕事帰りの一杯で、という感覚は世界では通用しない」(チャン会長)。(日経ビジネス 2009/01/12号 P.37)


あるいは、同じ文脈に位置づけられますが、リーダーシップが求められる中で、新たな次元での

「誠実さ」
が求められるようになっている、という指摘もあります。ジャック・ウェルチの同書によれば、
「職務に適切な人材かどうかを考える前に、候補者は三つのテスト(誠実かどうか、知性、成熟度)にパスしなくてはならない。・・・最初のテストは誠実(integrity)かどうかだ。・・・その人はほんものに見えるか?ミスをしたとき素直にそれを認めるだろうか。自分のことを話すとき率直に、慎み深く話すだろうか。」

それと似た指摘ですが、GEにおいてジャック・ウェルチの後継者候補として有名になったラリー・ボシディ(Larry Bossidy)は、「Execution(邦題:「経営は実行」)」という著書の中で、リーダーが備えるべき精神的な強さを支える4つの資質として、次を挙げています。

「本物(Authenticity)」・・・外面と内面とが一致しており、仮面を被っていない。
「自覚(Self-Awareness)」・・・己を知れ。昔からの格言であり、本物かどうかの核となるもの。
「克己心(Self-Mastery)」・・・己を知れば、己に勝てる。
「謙虚さ(Humility)」・・・利己心を抑えられれば、自分が抱える問題について現実的になれる。


上記の中に、「己を知る」ということがありましたが、組織メンバーの一人一人が「己を知る」ことを突き詰めることが、これから重要になる「学習する組織」の実現にあたっての不可欠な要素だ、という考え方もあります。「学習する組織」の提唱者、ピーター・センゲは、「学習する組織」の5つの要素の最初に来るものとして、「自己マスタリ―」ということを言っています。

「自己マスタリ―とは、個人としてのビジョンを絶え間なく明確にし、深め、エネルギーの焦点を絞り、忍耐を養い、現実を客観的に見る、そのような規律である。「学習する組織」に必須の土台であり、精神的な基礎と言える。(Peter Senge; The fifth discipline(邦題:「最強組織の法則」)より)


以上、「自己コントロール」のコンピテンシーの進化について見てきましたが、他のコンピテンシーについても、同じように、意味内容が進化しつつあることが見て取れます。人材開発部門として経営環境変化を先導していく上では、そのような変化をとらえ、突き詰め、自社の言葉として表現し、人材開発プログラムの中に組み込んでいくことが重要だと考えます。 

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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