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「高度IT人材育成」の議論に学ぶ

米国のサイトあたりから最新の情報を仕入れてきて・・・とやりたくもあるのですが、実益を重視して、ドメスティックに足元を固めたいと思います。

人材マネジメントの考え方を学ぶ上で、IT業界の動向は大変に参考になります。数年来、業界全体としての危機感を背景に、経済産業省がとりまとめ役となり、人材育成に関する議論と施策立案が積極的に行われ、その成果物は逐次公開されてきました。特に、2002年に発表されたITスキル標準は業界に大きなインパクトを与え、人材育成観はそれ以前と以後とでは大きく変化しました。それまで根強かった、企業内のOJTやジョブローテーションを通じて「企業固有知識」を身につけてもらうという人材育成観から、「世界に通じる専門知識・スキル」を身につけたプロフェッショナルになってもらうという人材育成観へと、主流は変わりました。

その後、ITスキル標準は対象が広げられ、ITスキル標準(ITSS)、組込みスキル標準(ETSS)、情報システムユーザースキル標準(UISS)が並ぶ3点セットとなり、さらに先月の10月21日には、対象の拡大とともに複雑化したそれらの標準類を橋渡しするものとして、「共通キャリア・スキルフレームワーク」が提案され、それをもって議論は一区切りついたような観がありますが、しかしいずれにせよ、過去数年間で、多くの有益なフレームワークやテンプレート類が蓄積されたと思います。他業界でもそのまま使えるものも多いのです。

そのような、業界・国を挙げて行われてきたIT人材育成の取組みですが、その最新の議論のプラットフォームは、「高度IT人材の育成を目指して」という報告書であると言ってよいと思います。

「高度IT人材の育成をめざして」 産業構造審議会情報経済分科会情報サービス・ソフトウェア小委員会人材育成ワーキンググループ報告書

狭い意味でのIT業界だけではなく、日本独自の市場に最適化された「ガラパゴス化」が言われる携帯電話などエレクトロニクス業界、さらには他の業界にも当てはめてみることのできる議論だと思います。そしてこの報告書は、企業における人材育成の企画書の雛形としても使えるものだと思います。目次はこんな感じです。

  • 第1章.IT人材を巡る構造変化
    1-1.今回の検討の狙い
    1-2.根本変化その1:ITの企業価値の中核への浸透
    1-3.根本変化その2:IT開発・生産・提供の基本構造の変貌
    1-4.根本変化その3:グローバルでシームレスなIT供給システムの発展
  • 第2章.世界のIT産業の戦略
    2-1.世界のIT市場の現状と今後の見込み
    2-2.世界のIT産業がめざす高度IT人材像
    2-3.世界のIT産業の人材戦略
    2-4.IT開発手法、人材スキルに関する国際標準化の動き
  • 第3章.我が国の現状
    3-1.我が国のIT人材の現状と展望
    3-2.我が国のIT人材育成に関する現状と課題
  • 第4章.高度IT人材(人材像、スキルとキャリア)
    4-1.今後の我が国がめざすべき高度IT人材の類型(全体像)
    4-2.具体的な人材類型とスキルセット
  • 第5章.高度IT人材育成に向けた具体的施策
    5.基本戦略(高度IT人材育成プラットフォームの構築)
    5-1.人材需給の好循環メカニズムの構築(A)
    5-2.高度IT人材の具体像(キャリアとスキル)の可視化、共有化(B)
    5-3.実践的かつ先端的な人材育成手法の確立(いくつかの具体的提案)(C)
    5-4.情報処理技術者試験とスキル標準の統合による客観的な人材評価メカニズムの構築(D)
    5-5.産学連携による実践的教育システムの構築(E)
    5-6.グローバルなIT人材育成メカニズムの確立(F)
    5-7.高度IT人材育成のための推進体制づくり(G)


環境変化との関係で、能力・スキル構築の課題が次のように示され、わかりやすいです。以下、自分のメモも兼ねて。

①企業のビジネス活動全体を構造化(モデル化)する能力
②業種ごとのベストブラクティスや主要企業の業務プロセスの状況に関する知見
③ソフトウェア要素をモジュール化して横展開際、どこまでを自社内で囲い込み、どの技術をオーブン化するか等、競争領域と協調領域の切り分けに関するビジョン、知見
④モジュール化された部品結合スタイルのために、プロセスとデータの構造化に関する知見
⑤開発環境、ツールについての標準化能力、API等相互運用性に関する知見
⑥多数の企業への横展開を念頭に置いて汎用的な製品・サービスを提供する能力
⑦コモディティ化されたITパワーの発展動向を見通した上で、その上に展開されるビジネスフロンティアを先取りして提案する能力
⑧世界に分散する最適のIT開発・生産リソースを踏まえて、そのポートフォリオ戦略を策定したり、実際にその要素分野で先鋭化したり、あるいは、それらの要素リソースを統合したりする多様なスキル

そして、それらの課題整理を受けた後半の議論と結論は、「求められる人材像、スキルとキャリアを明確にして、人材育成のPDCAサイクルを回すための手段を作って提供しよう」という流れになります。次が、本報告書の結論を示す、業界の中では有名と思われる図です。

IT1

IT2

IT3




さて、ここからが本題なのですが、課題が明晰に整理されているだけに、解決策に向けての議論は、(情報処理技術者試験や産学官協働に持っていきたいという)結論が初めにありきで穴があるように思え残念と私は考えます。というのは、上記の課題で整理された能力・スキルを日本のIT技術者が身につけることができないとしたら、そのような原因があるわけで、その原因が突っ込まれていないのです。その原因はいくつかに分類できると思いますが、最大のものは、「現場でそのような仕事をすることができない」ということだと思います。「あなたの本日の仕事は上記の能力・スキル構築テーマのいずれに該当しますか」と聞いた時に、ほとんどのIT技術者が様々なしがらみの中で該当することをやれていないとしたら、そのことが原因であり、その原因を取り除かなければならないのです。

そしてさらにその原因は、「特定の顧客向けに作り込みを行う受託開発ビジネスの価値観」が染み込んでいるからである場合が多いのではないでしょうか。日々の仕事のエネルギーが、目の前の顧客要求・・・しかもそれは逐次変わる・・・にひたすら追随していくことに注がれているからではないでしょうか。

それはともかく、人材育成の見直しは、日々の業務内容を書き出し、それが、身に付けるべき能力・スキルの方向性=企業として獲得すべき能力・スキルの方向性に合致しているかどうか、ありのままの姿を見える化し、分析、評価することから入るべきだと考えます。経営環境は再び90年代のようなことになるかもしれない状況にありますが、それだけに、仕事の中身を入れ替える仕事のリストラクチャリングを意識し、一人一人の足元の時間の使い方を変えていくことに焦点を当てる必要があると思います。

(メモ)時間の使い方の見直しから育成を始めることについて(NBonline拙稿より)
営業部門: http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20080321/150859/
商品開発部門: http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20080404/152286/

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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