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最新人材マネジメント情報

金融危機をきっかけに人事のあり方は変わるか

今回の金融危機と実体経済の減速をきっかけに、人材マネジメントの潮流は変わるでしょうか?人事部門の役割は変化するでしょうか?端的に言って、人事部門は忙しくなるでしょうか?それとも少しは余裕ができるでしょうか?

実体経済減速に既に両足を突っ込んでいると伝えられる米国における、SHRM(人材マネジメント協会)のウェブサイトや、HR.Comといったポータルサイト、またHRプロフェッショナルのブログなどいくつか見てみましたが、今のところ変化は見られないようです。ただ一つ、「経済の状況と当社の方針」についての従業員へのコミュニケーション(=戦略も人事も変化はないという従業員を安心させるためのコミュニケーション)のやり方が話題になっているサイトがありましたが。このような、人事部門の動きの静かさが、「人事部門はいつも受け身」「政府の規制立法に追随」ということを示すのでなければよいですが・・・

歴史を振り返ってみましょう。

日本における、90年代のバブル崩壊後の長期不況期は、その時期が丁度ベビーブーマー団塊世代の中高齢化のタイミングと一致したこととも相俟って、「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」を三種の神器とする所謂「日本的雇用」の解体が試みられた時期でした。「職務・成果重視型の報酬」や「契約社員やパートタイマーの活用」を初めとする新しい人事慣行の導入が進みました。その課程で企業の人事部は、新しい施策の推進主体として脚光を浴び、あるいは嫌われ役にもなりました。忙しくなったことは確かだったと思います。

今回は、世界的に大恐慌の再来になるのではないか、ということも一部では語られるわけですが、20世紀前半の大恐慌の時はどうだったのでしょうか?人事部門の役割の歴史を振り返り、今後のあり方を考える上で役立つのが、右上に紹介した書籍です。それによれば、大恐慌の時代こそ、人事部門が人事部門としての職能を確立したことがわかります。それまでは人事というのは採用や解雇も含めてラインマネージャーが行うものでしたが、雇用不安の中、政府の規制が強まり、また労働組合の組成が進み、人事管理者には、「政府の規制に従って雇用政策を設計し、組合と交渉し、あるいは組合組織化の機先を制せられる有能な専門家としての地位」が与えられたといいます(P.139)。「人事部は、団体交渉に備えて賃金体系を支配下に置き、連邦政府の賃金統制に従うため、賃金体系を正当化する職務評価制度を確立するという大規模な取組みを始めた。戦時労働局が、フリンジ・ベネフィット面での十分な支出を条件に賃金統制を行った結果、戦時中に医療制度と年金制度が急速に普及した」ともいいます(P.140)。そのように確立した人事機能は、その後も大きく後退することなく、さらに「経営者の育成」「コミュニケーション」「教育訓練」などの機能が付加されていったといいます。そして、1970年の平等雇用機会法を受けて、採用・解雇・指揮・教育・昇進・報酬のコンプライアンスリスクをコントロールするために人事機能の集権化が進み、人事部門の力は強まったといいます(P.151)。

そのような「人事部の全盛期」が終わり、振り子が逆の方向に振れ始めたのが、80年代以降の規制緩和と、株主資本重視の潮流であったといいます。株主の利益が強調されるとともに、リソースの配分における財務的な指標の重要性が高まり、財務部門の立場の強化と反比例するように、人事部門の立場は弱まったといいます。現在、資本の「レバレッジ」の功罪が言われていますが、レバレッジをきかせる手法は企業経営にも直接影響を与えたことは振り返れば明らかでもあります。株主価値を高めるために「株主資本利益率」を高めるためには、株主資本を元手にまず総資産を増やす(=レバレッジをきかせる)ことが最初のステップとなります。積極的にM&Aを行い、総資産を拡大しつつ、事業の中身を入れ替え、事業のポートフォリオの財務的な価値を高めることは、その帰結となります。そこにおいて、数字で表現しにくい「人的資本の顧慮」は後回しになります。そのような規制緩和と株主資本の重視は、長い好況の時代をもたらし、労働者保護のための政策の重要性を相対的に低くしたわけでもありますが、今回、その長く続いて積み上がったバブルがはじけたわけで、今後の、雇用・労働・人事政策に関わる動向がどのように形成されてくるか、注目されます。

株価が下がっていますが、それは「株主資本中心主義」の時代が終わったからである、と考えれば当然であると言えるかもしれません。そして、人間や企業は株主でもありますので、その意味ではダメージを受けることは避けられませんが、「知識資本」「人的資本」が毀損するわけではありません、「知識資本」「人的資本」に焦点を当て、その価値を「見える」ようにし、その価値を高めるような仕組みや活動の意味は、今後ますます高まっていくのではないでしょうか?そして、そのために人材マネジメントに期待されるものは、大きいのではないでしょうか。

企業価値とは「近い将来にコーディネートされる活動の全体」のことを意味するとすれば、社会資本をサステナビリティ対応のものに世界的規模で更新していかなければならないこれからの時代、企業の潜在価値は莫大なものであると考えられます。その価値を具体化するための活動をいかに引き出し、コーディネートするか・・・人材マネジメントに関わる者の目標はそのことに尽きるのではないでしょうか。経済環境がどのようになろうとも、人々が前を向き、チームで価値を生み出すための、支援やお膳立てを考えたいですね。

関連書籍

jinjibu
  • タイトル:日本の人事部・アメリカの人事部
  • 著者:サンフォード・M・ジャコービィ
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 出版日:2005/11/03

プロフィール

写真:南雲 道朋(なぐも・みちとも)
株式会社HRアドバンテージ取締役
南雲 道朋(なぐも・みちとも)

株式会社HRアドバンテージ取締役。富士通でシステム開発企画、マーサージャパン等の外資系コンサルティング会社で業務改革/マネジメント改革/組織改革/人材開発を横断するプロジェクトの企画・推進を行ってきた。分野を横断するシステム思考の実践を基本姿勢とし、近年は人と組織のデータ活用の仕事に注力している。著書に、『多元的ネットワーク社会の組織と人事』(ファーストプレス)、『チームを活性化し人材を育てる360度フィードバック』(共著、日本経済新聞社)、『図解戦略人材マネジメント』、『実践Q&A戦略人材マネジメント』(以上共著、東洋経済新報社)がある。

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